日本の土塗り壁は,左官職人が口伝や修行という暗黙知という形で受け継いできたものである.もし,その土塗り壁よりも優れた土塗り壁を構築できれば,土塗り壁の補修をするだけで伝統木造建築物の耐震性能が向上する,つまり意匠性を損なわない耐震補強方法を提案することができる.そこで,長い年月の自然淘汰を経て最適化されてきた生物の生み出す構造である「ツバメの巣」に着目し,その構造・材料を明らかにすることで,新たな土塗り壁を提案するための研究をおこなっている.
※本研究はJSPS科研費の助成を受けて実施している.
斗栱は,長きに渡り木造建築に採用されてきたディテールであり,この斗栱の持つ神秘を闡明することは,建築のサスティナビリティを考えるための,多くのヒントを与えてくれるものと考えている.現在は,経年変化が地震時挙動に及ぼす影響を解明するために,古材で構築された斗栱を用いた実験をおこない,分析を進めている.また,斗栱のルーツについて歴史調査をおこない,その神秘の解明のために研究をおこなっている.
伝統木造建築物の軒反りは,瓦の重みや,経年によって変化する.それらを考慮して経験的に堂宮大工が軒反り曲線を決定しているという伝統技術がある.その軒反りに着目して,瓦の重みや経年変化によって軒反りがどのように変化するかを定量的に把握することを目的とした現場での測定を実施している.
御堂の各改修工程における常時微動測定をおこなうことで,御堂を構成する各要素が固有振動数や固有振動モードといった振動特性に与える影響について研究をおこなっている.
歴史的煉瓦造建築物の構造性能を明らかにするために,実在する歴史的煉瓦造建築物を対象とした構造調査,常時微動測定,採取した試験体の加力試験,煉瓦のX線CTを用いた観察,目地の成分分析等をおこなっている.併せて,煉瓦造建築物の数値解析シミュレーション方法についても検討している.
東洋大学の創立者である井上円了が創設した哲学堂公園(東京都中野区)内に現存する古建築群を建築学的に調査・分析をおこなうことで,井上円了哲学について考察を試みる研究をおこなっている.本研究は,建築学科設計演習科目「木造建築設計演習」と連携している.これらは,井上円了哲学センターおよび井上円了記念博物館からのご協力を得て,実施している.
※絵は,高岩准教授が描いた蔀戸・折戸が全開した四聖堂.
炭素繊維複合材料の持つ高強度・軽量・結露しにくいという特徴は伝統木造建築物の耐震補強に有用であるが,従来の炭素繊維複合材料部材は脆性破壊をするという課題があったため,靭性能を付与する必要があった.そこで,炭素繊維複合材料部材の端部定着構造に靭性能を付与する開発をおこなった.本研究は,開発した靭性能を有する端部定着構造を適用した炭素繊維複合材料部材による木造耐震補強壁について,施工実験・構造実験をおこない,炭素繊維複合材料の有用性を明らかにすることを目的としている.
その土地土地で採れる土を突き固めることによって構造物を構築する工法である版築は,古来より世界中で使用されてきた伝統的な建築技法である.持続可能性の要請が高まる昨今,版築は再び注目を集めている.この版築の材料強度に及ぼす因子について,調合および施工の観点から研究をおこなっている.
木部材単体では,打音測定で木材全体のヤング係数を評価できることが知られているが,実際の建築物の柱では壁の取り付き等によって部材の拘束度が変化し,木部材の周波数特性が変化する.そこで,壁の取り付きによって柱の周波数特性がどのように変化するかを確認するため,実大実験や解析シミュレーションによってデータを構築することで,非破壊調査方法の開発をおこなっている.
明治期に建設された川越市に現存する蔵造建築物の振動特性を明らかにするために調査をおこなっている.過去(20年前)に東洋大学で計測したデータとの比較から経年変化による影響を明らかにする.
歴史的木造建築物の耐震補強,それに伴う耐震診断を実施する際には,地震に対する構造性能(耐震性能)を評価する必要がある.しかしながら,歴史的木造建築物の耐震性能は研究の蓄積によりある程度は解明されてきているものの,全て解明されているとは言い難い状況である.そこで,高岩研究室では,実在する歴史的木造建築物の各種構造調査をおこない,データの蓄積をおこなっている.
特殊な構法・材料などを用いた設計プロジェクトへの技術支援を受託し,高岩研究室で構築した古建築,先端技術・材料に関する研究知見を社会に還元する活動をおこなっている.